ブレッドボードラジオデジタルICの実験

シュミットインバータによる発振回路

 シュミットインバータICを使った方形波の発振回路について実験しました。稲葉保ほか著「トラ技オリジナルNo.8 実験研究 発振回路⁄信号発生器 完璧マスター」(CQ出版社) という本を参考にしました。

シュミットインバータの特徴

 図1

 インバータというのは入力レベルが反転して出力に現れるゲートICですが、これには普通のインバータのほかにシュミットトリガ・タイプのインバータというのがあります。シュミットインバータを用いるとインバータ1個だけで方形波の発振回路を作ることができます。上に、今回の実験で使用した普通のインバータIC・74HC04Pと、シュミットインバータIC・74HC14Pのピン接続図を掲げます。どちらも14ピンDIP型でピン接続も同じです。1個のICの中に6個のインバータが入っています。

 図2

 図2は、普通のインバータとシュミットインバータの違いを調べる実験です。インバータの入力端子に発振器から1kHz, 5Vp-pの三角波を加え、入力電圧と出力電圧の変化をオシロスコープで測定しました。左画面が普通のインバータ74HC04P、右がシュミットインバータ74HC14Pです。入力電圧を赤、出力電圧を黄色で示しています。ICの電源電圧は5Vです。

 普通のインバータの場合は入力電圧が電源電圧の約半分のところを横切るたび、出力がLになったりHになったりします。この、出力が変化する境目の電圧はスレッショルド電圧VTHとよばれます。一方、シュミットタイプのインバータは出力がLからHになるときとHからLになるときとではスレッショルド電圧が異なっています。図中でVL, VHと記した電圧がそれで、VLは1.8Vくらい、VHは3.1Vくらいでしょうか。シュミット・インバータのこういう特殊な性質がインバータ1個での発振を可能にしています。

シュミットインバータを使った発振回路

 図3

 上記がシュミットインバータによる発振回路です。デジタルICの回路図というのは慣れないとわかりにくいと思うので、念のために実際の配線図も右に出しました。今回は6個のインバータの内1個だけしか使いません。残りの5個のインバータは入力端子 (3, 5, 9,11,13番) を電源のプラスあるいはマイナスにつないでおきます。開放のままで放っておくとICが壊れることがあるそうです。逆に出力端子はオープンにしておかなければなりません。電源はDC5VをVDD〜VSS間につなぎます。C2は電源のバイパスコンデンサで、回路図に書いてなくても入れておいた方が安心です。

 発振周期Tおよび発振周波数fはC1とR1の値で決まり、T≒C1xR1、f≒1÷(C1xR1) になります。非常にシンプルな式ですが、これは74HC14Pを電源電圧5Vで使用した場合です。C1が0.01μF、R1が100kΩの場合はT=1ms、f=1kHzです。ただ実際はCRの誤差や個々のICによるVL, VH値のバラツキなどのため、計算値ぴったりにはなりません。ここでテストした回路ではT=1.04ms, f=960Hzでした。

 電源電圧が低くなると、それにつれて発振周波数も下がります。また、古いタイプのシュミット・インバータICである4584Bを用いた回路では、同じVDD=5Vでも T≒0.6xC1xR1、f≒1÷(0.6xC1xR1) になるそうです。これは、4584Bは74HC14Pに比べてVLが高く、VHが低いためです。

 C1とR1をいろいろに変えて発振周波数を測定しました。結果を下の表に示します。実験に用いたICは日立のHD74HC14Pです。C1とR1はあり合わせの物を適当に用いたので多少誤差があります。C1はケミコンのような極性があるものでもOKです。

 図4

 高い方は短波帯でも発振が可能ですが、C1が100pFでは周波数が計算値とだいぶずれます。これは回路のストレー容量が影響しているのだと思います。ちなみにC1を接続せず、1kΩのR1だけにすると20MHzくらいで発振しますが、非常に不安定で、ICに指先を触れただけで周波数が大きく変動してしまいます。

 表Bは負荷抵抗RLの大きさによる周波数の変動を調べたものです。RLが小さい (出力電流が大きい) ほど周波数は低くなります。また、RLが470Ωのときは出力の振幅が4.5Vくらいになりました (通常は5V)。表Cは電源電圧VDDによる周波数の違いです。74HC14PはVDD=3Vでも動作しますが、周波数はVDD=5Vのときと比べて20%くらい低下します。

 下に、C1=100pF、R1=1kΩのときの出力波形を示します。約6.4MHzで発振しているのですが、少し波形が乱れていますね。実験の際は電源ラインに0.1μFのパスコンを入れています。パスコンがないともっとひどい波形になります。もっとも、本に載っていた波形写真ではオーバーシュートなど出ていませんでしたので、オシロスコープの性能や測定方法に問題があるのかもしれません。中波帯以下の周波数ではまあまあきれいな方形波でした。

 図5

発振回路の動作

 シュミットインバータ発振回路の動作原理について、本を読んでわかったことをまとめました。

 図6

 上図左は発振回路の入力端子の電圧と出力端子の電圧をオシロスコープで見たものです。最初に出てきたC1=0.01μF、R1=100kΩの回路です。960Hzで発振しています。右は各期間の動作を示した説明図です。

 入力端子の電圧はVLとVHの間で上下しています。電圧がVLまたはVHに達するたびに出力が反転します。図の[1]の期間はインバータの入力はLで出力はHになっています。そのため電源プラスから出力端子、そしてR1を通ってC1に電流が流れ、C1の電圧はだんだん高くなります。C1の充電が進んで端子電圧がVHに達すると、出力端子がLレベル (0V) になります。そうなると入力端子の電圧の方が高いので、今度はC1からR1、出力端子、電源マイナスへと放電します (図の[2])。C1の電圧が下がってVLになると出力が反転してHになり、再びC1への充電が始まります。

 この発振回路ではC1の充電時間と放電時間の和が発振出力の1周期となります。したがってICのVLおよびVHの値が変わると発振周波数も変わります。また、VLとVHが電源電圧の半分 (今回の例では2.5V) からどれくらいずれているかによって、出力波形のデューティ比も変わります。上の回路ではHの時間が524μs、Lの時間が512μsで、Hの時間がやや長くなりました。

保護抵抗が必要?

 図7

 最初に挙げた参考書には、C1が数千pF以上のときはICの入力端子に1k〜10kΩ程度の保護抵抗を入れなさいと書かれています。上のような回路になります。ICが動作中は入力インピーダンスが非常に高いので、R2には電流がほとんど流れません。R2の左側も右側もまったく同じ電圧です。しかし、電源をオフにするとC1に溜まっていた電荷がIC内に流れ込むので、そのときに過大な電流が流れないようにR2で制限する必要があるとのことです。

 しかしながら、私が知る限りではこの本以外に保護抵抗が入った回路を見たことがありません。コンデンサが数μFでも入力端子に直結されています。これはどういうわけでしょう。そう神経質になることもないということでしょうか。よくわからないので、当面は保護抵抗を入れることにしようと思います。

 下は保護抵抗R2があるときとないときの周波数の違いを調べた結果です。低周波ではR2があってもなくても同じです。周波数が高くなると影響が出てきますが、これはR2の直流抵抗分だけが原因かどうかはわかりません。また、周波数に関係なく、R2が10kΩを超えると動作が不安定になります。

 図8

簡単な回路例

 シュミットインバータ発振回路の簡単な遊びかたをいくつか紹介します。

 図9-1

 図9は発振回路の出力に圧電スピーカーをつないでピーという音を出す回路です。AとBは上でやった1kHzの発振回路で、圧電スピーカーはプラス側につないでもマイナス側につないでも同じです。圧電スピーカーに流れる電流はわずかなので、R3は必要ないかもしれません。Cはボリュームで周波数を変えることができる回路です。

 Dは圧電スピーカーをC1の代わりにする回路で、こうすると部品が1個節約できていいと思ったんですが、音が小さくてNGでした。クリスタルイヤホンなら十分な音量で聞けます。この回路での発振周波数は、12mm径の小さい圧電スピーカーで1700Hz、30mm径の圧電スピーカーで550Hz、クリスタルイヤホンのとき260Hzでした。

 Aの回路のブレッドボード配線図と試作写真を下に掲げます。

実体図9 写真9

 図9-2

 図9-2は8Ωのダイナミックスピーカーを鳴らす回路です。IC出力とスピーカーの間はコンデンサでつなぐ方法 (A) と抵抗でつなぐ方法 (B) があります。どちらでも同じくらいの音量です。これらの回路でICの消費電流を測ってみると1.5mA程度でした。C2をもっと大きく、あるいはR3をもっと小さくすれば音が大きくなりますが、出力電流が多くなるにつれてだんだん周波数が下がってきます。図9-2Cは余っているインバータを並列にして出力を強化するもので、こうすると周波数を低下させずに大きな音を出すことができます。この場合ICの消費電流は約21mAになりました。

 図10

 図10はLEDの点滅回路で、いずれも約1Hzの発振回路になっています。AはLED1個の点滅回路です。LEDはIC出力と電源プラス間につなぐこともできます。図9-2のようにインバータを並列にすれば複数個の同時点滅も可能です。Bはインバータを1個追加して交互点滅させるものです。インバータ1個だけでLED2個を交互点滅させたいときはCのようにします。また、電源電圧が3Vの場合はDの回路でもOKです。

 図11

 図11は出力のデューティ比を変える回路です。Aの回路では、充電のときはR1→D1→C1という経路で電流が流れ、放電のときはC1→D2→R2という経路で電流が流れます。R1がR2より小さいので充電時間の方が短くなり、結果LEDは点灯時間の短い点滅動作をします。D1とD2の向きを反対にすると消灯時間の短い点滅になります。Bはボリュームでデューティ比を連続的に可変する回路です。ボリュームのスライダーがD1側へ行くほど点灯時間が短い点滅になります。

 図12

 図12Aはデューティ比を変えることでLEDの明るさを調節するもので、一種のパルス幅変調です。C1が小さいのでLEDは高速で点滅し、肉眼では連続点灯しているように見えます。この状態で出力のデューティ比を変えると、点灯時間の比率が大きいほど明るく光って見えます。図Aの回路ではVRスライダーがD2側へ行くほどLEDが明るくなります。図Bは2色LEDの赤と緑の点灯比率を変えることで色を変化させる回路です。VRスライダーをD1側からD2側へ移動させると、LEDの色が緑→黄色→オレンジ→赤と変化していきます。