ブレッドボードラジオ電源回路

直列コンデンサによるヒーター点火

 トランスレス真空管ラジオのヒーター回路に直列にコンデンサを入れる方式について、これまでにわかったことをまとめました。

1. トランスレスラジオのヒーター回路いろいろ

第1図

 トランスレス真空管ラジオでは、ヒーター定格電流が同じ真空管を用い、各真空管のヒーターをすべて直列に接続して、ヒーター定格電圧の合計が電源電圧に等しくなるようにします。第1図の1番は5球スーパーの例で、ヒーター定格電流が0.15Aの真空管を5本直列にしてAC100Vにつないでいます。

 ヒーター電圧の合計が100Vに満たない場合は、2番のように、足りない分を抵抗で補います。図は4球ラジオの例ですが、0.15A流れたときに11Vの電圧降下が生じればよいので、抵抗値は73Ωとなります。また、この抵抗では1.7Wの電力を消費するので、2W型以上のものが必要です。

 ヒーター電圧の合計がもっと低い場合(球数の少ないラジオなど)は、抵抗を大きくすればよいのですが、でっかい抵抗器で無駄に電力を消費することになり、どうもうまくありません。

 ここで第三の方法、直列コンデンサによるヒーター点火の登場です。第1図3番に示すごとく、抵抗の代わりにコンデンサを入れて回路に流れる電流を一定値に制限するやり方です。理論上、コンデンサは電力を消費しないので発熱することもなく、部品配置に気を使わなくてすみます。ただし、ここに用いるコンデンサはフィルム系のものでなければなりません。ケミコンはだめです。

2. コンデンサの容量値の計算法

 直列に入れるコンデンサの容量値の計算方法について説明します。元になったのは「ラジオの製作」1997年7月号に載っていた佐藤裕也氏の記事です。ここでは6C4単球ラジオの作り方が紹介されており、直列コンデンサで6C4のヒーター(定格は6.3V, 0.15A)を点火しています。

 この記事には容量値の求め方が次のように説明されています。

第2図

 この記事を元に、各種のヒーター定格に対応した計算式を作ると、下の第3図のようになります。

第3図

 このままでは計算が面倒なので、トランスレス球の一般的なヒーター定格電流である0.1Aおよび0.15Aのそれぞれについて、AC電源周波数が50Hzのときと60Hzのときの計算式を作りました。なお、AC電源電圧は100Vとします。

第4図

 ヒーター電圧の合計(Eh)をいろいろ変えてコンデンサの値(μF)を実際に計算してみた結果が下の表です。

Ih=0.1A
f18V36V50V60V70V80V
50Hz3.23.43.74.04.55.3
60Hz2.72.83.13.33.74.4
Ih=0.15A
f6.3V12.6V25V30V40V50V
50Hz4.84.84.95.05.25.5
60Hz4.04.04.14.24.34.6

3. 使用するコンデンサの種類

 上にも書きましたが、コンデンサはフィルム系のものが必要です。また、品質の悪いものは使用中に発熱することがあるそうです。ラジオ雑誌で直列コンデンサ方式が登場するのは近年になってからで、古いラジオ雑誌では見かけません。昔は良質のコンデンサが得られなかったからではないかと思います。耐圧は、各種製作記事では250Vのものが用いられていることが多いです。

 私が実験に使ったのは、「サトー電気」で通販している「メタライズド・フィルムコンデンサ(MFコンデンサ)」というものですが、数時間連続使用しても発熱などのトラブルはありませんでした。
 この種のコンデンサは同容量のケミコンと比べるとかなり高価です。12V, 0.15Aのヒーターを点火する場合で言うと、コスト面ではヒータートランスを使うのとたいして違いません。しかしスペースの点ではぐんと有利です。ヒーター電流が0.3A以上になると、ヒータートランスを使ったほうが安上がりです。

 ご承知のように、コンデンサの容量表示と実際の容量は誤差があります。また、真空管のヒーター定格にもばらつきがあります。そのため、実際の動作状態はなかなか計算どおりにはいきません。定格電流と10%以上違ってしまったときは、小さい容量のコンデンサを並列にするとか、抵抗を直列にするとかして微調整する必要があります。

4. ヒーターの立ち上がり

 上の表を見ておわかりのように、ヒーター電圧の合計が大きく変わっても、必要なコンデンサの容量はそれほど違いません。これは、使用中の電圧変化に対しても電流がほぼ一定であるということを意味します。

 真空管のヒーターは電球のフィラメントと同じで、冷えているときは抵抗値が低くなっています。例えばヒーター定格が12.6V, 0.15Aの真空管の場合、割り算すると84Ωですが、これはヒーターが十分暖まったときの値で、冷えているときは15Ω(約7分の1)くらいしかありません。第1図の1番や2番の回路では、電源スイッチを入れた直後はどっと大きな電流が流れ、ヒーターの温度が上がるにしたがってだんだん電流が減って、約10秒後に0.15Aになります。このこと自体は特に問題ではありません。

 問題は、ヒーターの立ち上がり、つまり温度上昇のスピードが真空管によってまちまちだということです。私のこれまでの経験では、ヒーター電圧の低い真空管ほど立ち上がりが早い(早く熱くなる)ように思います。例えば第1図3番のような構成(35W4-30A5-12BA6)の3球ラジオで、コンデンサではなく抵抗(約150Ω)をつないでヒーターを点火したとします。電源スイッチを入れると12BA6のヒーターだけが他の2本よりも早く立ち上がるので抵抗値が高くなり、定格電圧よりも高い電圧がかかってしまいます。私の実験では、12BA6のヒーター両端の電圧は、数秒間にわたって20V以上になりました。新品と中古球を混ぜて使うと、アンバランスはもっとひどくなります。

 昔市販されていたメーカー製のトランスレスラジオやテレビでは、このようなトラブルが起きないようにあらかじめ品質管理がなされていました。しかし今の時代に真空管ラジオを自作するとなると、各メーカーの新品・中古を取り混ぜて使わざるを得ないと思うので、ヒーター電圧が大きく違う真空管を直列にするときは注意が必要です。

 直列にコンデンサを入れる方法だと、流れる電流はスイッチオン直後から一定になります。したがって、上記のような立ち上がりのアンバランスを抑えることができます。12V管のヒーター電圧も0Vから12Vへゆっくりと立ち上がっていきます。球数の少ないラジオの場合はこうしたメリットも見のがせないと思います。

 一方で、直列コンデンサ方式には欠点もあります。それは、ヒーターがゆっくり立ち上がるので、ラジオのスイッチを入れてから音が出るまで時間がかかるということです。私が6BH6-6AK6 2球ラジオ(ヒーター定格はどちらも6.3V, 0.15A)で実験したところでは、6.3Vのヒータートランスで点火すると音が出るまで約12秒ですが、直列コンデンサを用いてAC100Vで点火すると、音が出るまで約20秒かかりました。

 最後に、佐藤氏の作品を見るとヒーターと直列に50Hzで22Ω、60Hzで10Ωの抵抗が入っています。これはコンデンサを急激な充放電から保護するためのものではないかと思います。製作例によっては入っていないものもありますが、ラジオを長く使うなら入れたほうがいいのかもしれません。

 (2005年11月17日)

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