ブレッドボードラジオ電源回路

AC100V整流回路

 家庭のコンセントに来ているAC100Vを直接整流するとどれくらいの直流電圧が得られるのか実験しました。
 当ホームページは基本的に私の実験結果の一方的な報告というスタイルをとっていますが、このページで紹介する回路は使い方を誤ると大きな事故につながるおそれがあるので、今回は最低限の注意事項についても少し書くことにします。

第1図

 第1図は実験に用いた「負荷試験器」です。真空管6L6GCのグリッドバイアス電圧を変化させることによって、プレート電流、すなわち電源回路の負荷電流をコントロールする仕組みです。6L6GCは3極管接続にしています。

第2図

 第2図は半波整流回路です。20Ωの抵抗Rはダイオードの保護用です。

 この回路でコンデンサC1の容量を変えたときの出力電圧とリップル電圧を測定しました。ここで言うリップル電圧とは、出力端子に0.1μFのコンデンサを介してテスタのAC電圧計をあてて測定したものです。リップル電圧の本来の定義とは違うと思いますが、大小の比較の目安として見てください。
 実験結果は下記の表の通りです。Ioutの単位はDCmA、VoutはDCV、VripはACVです。なお、私の部屋に来ているAC100Vは、97V〜103Vくらいの範囲で絶えず変動していますので、下の表の数値もそれくらいの誤差があると思って見てください。

IoutC1=10μFC1=22μF C1=33μFC1=47μF
VoutVripVoutVripVoutVrip VoutVrip
01360.021360.021360.02 1370.02
101284.31322.11331.3 1331.0
201218.61284.11302.6 1301.9
30114121246.01283.8 1282.8
40108161217.91255.1 1273.7

 コンデンサの容量が少ないと充電が追いつかなくなるので出力電圧が低くなります。22μF以上あればそれほど大きな差は出ません。

 続いて、保護抵抗Rを50Ωおよび100Ωにしたときの実験結果を示します。

Rが50Ωのとき
IoutC1=10μFC1=22μF C1=33μFC1=47μF
VoutVripVoutVripVoutVrip VoutVrip
01370.021380.021360.02 1380.02
101284.21312.11301.3 1330.95
201208.11263.91262.5 1281.9
30111121215.81223.7 1242.7
40106161177.71184.9 1213.6
Rが100Ωのとき
IoutC1=10μFC1=22μF C1=33μFC1=47μF
VoutVripVoutVripVoutVrip VoutVrip
01390.021390.021390.02 1390.02
101294.11302.01301.3 1300.90
201197.81233.91242.5 1241.8
30110121165.71183.7 1182.7
40102151107.41124.8 1133.5

 当然ながら、Rを大きくすればするほど出力電圧は下がります。それにともなってリップル電圧も少し小さくなるようです。

 AC100Vを直接整流する場合はこの抵抗を省略することはできません。この抵抗がないと、電源オン時に過大な電流が流れてダイオードが壊れるおそれがあります。ダイオードが壊れるとケミコンの破裂など大きな事故につながります。今回の実験では20Ωを用いましたが、これは整流管との比較をしたかったからで、現行のシリコンダイオードならば10Ωで十分だと思います。整流管の場合は20〜40Ω程度になっているのが普通です。電源トランスを用いるラジオでは、トランスの二次巻線の直流抵抗が保護抵抗の代わりをしています。

 また、この抵抗はかなり発熱するので、2W型以上の大きいものを使う必要があります。私は最初1W型の酸金抵抗をつけていたのですが、実験の途中でパチンという音とともに断線してしまいました。よく知られている「ラジオの製作」の佐藤裕也さんの製作記事では33Ω1/2Wという抵抗が使われていますが、大丈夫なんでしょうか。

第3図

 第3図は整流用の真空管を用いた半波整流回路です。真空管はシリコンダイオードに比べて内部抵抗が高いので、出力電圧が低くなります。シリコンダイオードを用いて保護抵抗を100Ωにしたときと同じくらいです。
 整流管は35W4のほか、25DK4、36AM3B、50DC4を試してみましたが、どれでもほとんど同じでした。
 実験結果は下の表の通りです。

IoutC1=10μFC1=22μF C1=33μFC1=47μF
VoutVripVoutVripVoutVrip VoutVrip
01400.021390.021400.02 1400.02
101264.01281.91291.3 1290.90
201167.81213.81222.5 1221.8
30108121155.61163.6 1172.7
40100151107.41114.8 1123.5

第4図

 第4図はシリコンダイオードを4個用いるブリッジ整流回路です。半波整流回路と比べるとリップル電圧は半分になり、またレギュレーションも向上しました。

 いいことづくめのようですが、欠点もあります。この回路をラジオに用いる場合は、出力端子のマイナス側(ラジオ回路のアース側)をシャーシに直接つなぐことができません。コンデンサを使って直流的に絶縁する必要があります。外部アンテナ・アース端子も同様です。これはちょっと面倒くさいし、ハム・ノイズの点でも不利になります。半波整流回路では、回路のマイナス側をACラインのGND側と一致させれば、シャーシに直接アースすることができます。ただそのためには、ACプラグに印をつけるか、ネオン管などによる極性検知回路を設ける必要があります。

 実験結果は下の表の通りです。

IoutC1=10μFC1=22μF C1=33μFC1=47μF
VoutVripVoutVripVoutVrip VoutVrip
01390.021390.021400.02 1390.02
101352.01371.01380.6 1370.5
201323.81351.91371.2 1360.9
301295.41332.81341.8 1351.3
401277.31323.61332.3 1331.7

第5図

 第5図Aは半波倍電圧整流回路、第5図Bは両波倍電圧整流回路です。いずれも、AC入力電圧の2倍以上の直流出力電圧が得られます。AC100Vを倍電圧整流すると約250Vの直流電圧が出てくるので、真空管ラジオにはちょうどいい感じです。出力電圧に対するリップル電圧の割合はブリッジ整流回路と同じくらいになりました。半波でも両波でもそれほど大きな差はありません。

 倍電圧整流回路を実用にするにあたっては注意しなければならないことがいろいろあります。
 別項「各種整流回路の実験」のところにも書きましたが、半波倍電圧整流回路の入力側のコンデンサC1は、普通の平滑用ケミコン(例えば同回路のC2)とは働きが違います。そのため、本を見ると「ハイリップル用」を使えとの注意書きがあります。でもこういう特殊な部品は通販では入手困難なので、今回は耐圧350Vの普通のケミコンを使いました。

 この実験は夏の暑い日に行なったのですが、そういう条件下で出力電流50mAにて1時間ほど通電してみたところ、C1の外壁の温度が5℃ほど上昇した以外は、特に異状は見られませんでした。ただラジオの電源回路に用いて長期間使用できるかどうかはわかりません。この点について何人かの先輩方に質問してみたことがあるのですが、明確な返答はいただけませんでした。「ハイリップル用? そんな話は聞いたことがない」とうそぶいて、普通のケミコンを使い続けている人もいますが・・・。

 また、今回の実験回路ではC1のマイナス側にすぐ電源スイッチがあるので、C1にたまった電気はスイッチを切ってもずっと残ったままになります。これを防ぐため、C1と並列に数百KΩの抵抗器が接続された回路を見たことがあります。

 両波倍電圧整流回路は半波整流回路の2階建てバージョンなので、C1,C2ともに普通のケミコンでOKです。しかしこの回路はブリッジ整流回路と同じく、回路のマイナス側をシャーシに直接アースできません。それに加えて、ラジオを構成する真空管のヒーターを直列につないでAC100Vで点火した場合、直流出力電圧の半分の電圧が各真空管のヒーター・カソード間にかかります。通常、ラジオ用真空管のヒーター・カソード間の耐圧(直流分)は100V程度のことが多いので、定格をオーバーしてしまいます。

 以上、なんやかやでトランスレスではちょっと使いにくい回路です。
 よけいな説明が長くなってしまいました。倍電圧整流回路の実験結果を下に示します。

Iout半波倍電圧両波倍電圧
VoutVripVoutVrip
52710.52730.4
102680.92700.8
202621.72661.6
302562.62622.3
402513.42583.0
502454.22533.7

 (2005年8月20日)

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