ブレッドボードラジオ電源回路

シリーズ・パス型定電圧電源回路(その2)

 誤差増幅器の付いたシリーズ・パス型定電圧電源回路の実験をしました。出力電圧のわずかな変動を検出して制御トランジスタへフィードバックすることで、電圧安定度を高めるタイプです。

1. 定電圧ダイオードを基準電圧にする

実験回路1

 雑誌の製作記事に登場する定電圧電源(安定化電源)は部品点数が多く複雑な回路になっていますが、今回はもっとも基本的な形である上記のような回路を組んで、出力電圧の安定度やリップル電圧の大きさを調べました。

 基準電圧には05Z6.2という定電圧ダイオードを用いました。TR1(2SD2012)のhFEは約350、TR2(2SC1815)のhFEは約200です。通電後、出力側のボリューム(VR)を調節して出力電圧を12Vにセットしました。スライダーが中点より少しプラス側のところで12Vになりました。出力電圧が12VならTR1に放熱器は必要ありませんが、後の実験の都合もあって、熱抵抗が20℃⁄Wの小さい放熱器をつけました。

IoutVinVoutIc2VzdVrip
023.212.0010.56.290.001
5020.512.007.96.270.002
10018.411.995.86.250.003
15016.711.994.06.240.006

 実験の結果は左記の通りです。Vin,Vout,Vzdの単位はDCV、Vripの単位はACV、Iout,Ic2の単位はDCmAです。Voutは細かい数字を出しましたが、安物のテスタによる測定だし、ブレッドボードのソケットの接触抵抗の問題もあるので、最小桁はあまりあてになりません。

 とは言え、出力電流Ioutを0から150mAまで変化させても出力電圧Voutはほとんど変化しません。すばらしい安定度です。でもこれはちょっと出来過ぎですね。リップル電圧は前に実験した誤差増幅器がないタイプと同じですが、イヤホンをつないで音を聞いてみると、「シー」というノイズが消えています。ラジオやアンプにつなぐことを考えると、電圧の安定度が増したことよりこのノイズが消えたことの方がうれしいです。コンデンサC2がないとリップル(ハム音)が増えます。

 回路定数を変えたりトランジスタをを差し替えたりして安定度の違いを実験してみたのですが、測定誤差の範囲内と言える程度の差しかなく、よくわかりませんでした。でも大まかな傾向としては、安定度を高めるためには、TR1の放熱は余裕があったほうが良い、R1は大きいほうが良い(Ic2は少ないほうが良い)、TR2のhFEは高いほうが良い、VRは小さいほうが良い、ということは言えそうです。

 ところで、この回路ではボリュームを調節することによって出力電圧を変えることができます。スライダーをマイナス側(回路図で下側)へもっていくと出力電圧が高くなり、プラス側へもっていくと電圧が低くなります。負荷電流が0の状態でボリュームをマイナス側へ回しきるとVoutは23.3Vになりました。このときVinは23.9V、Ic2は0mAでした。反対にプラス側へ回しきったときはVoutが7.0V、Vinが22.7V、Ic2が16mAになりました。

 下に、Voutが15Vのときと9Vのときの測定結果を記します。

Vout=15V
IoutVinVoutIc2VzdVrip
023.215.007.66.270.001
5020.614.964.96.250.002
10018.514.942.86.240.005
15016.714.861.26.220.04
Vout=9V
IoutVinVoutIc2VzdVrip
022.99.0013.26.300.001
5020.29.0010.56.290.002
10018.19.018.56.270.003
15016.39.026.66.260.004

 15Vで150mA流すと電圧降下が大きくなってリップルも増えます。これだけ流すのはちょっと無理があるようです。

 一方、出力9Vではよく安定していますが、出力電流が増えると逆に電圧が高くなりました。どうしてなのでしょう。最初の実験の結果について「出来過ぎ」と書いたのはこのことが気になったからです。この回路には出力電圧を上げる要因と下げる要因の両方があって、12Vのときはたまたま両者が釣り合ったので出力電圧が一定になったのではないかと・・・。

2. 普通のダイオードを基準電圧にする

 上の回路で出力電圧が7Vより低くならないのは、基準電圧に6.2Vの定電圧ダイオードを使用しているためです。そこで、可変範囲をもっと広げるため、普通のシリコンダイオード(1S1588)の順方向電圧を基準電圧にしてみました。この方法は実際の電源器の製作記事でも見たことがあります。

実験回路図2

Vout=12V
IoutVinVoutIc2VdVrip
023.412.0010.60.700.001
5020.711.928.00.690.004
10018.811.876.20.670.009
15016.811.744.40.650.016
Vout=3V
IoutVinVoutIc2VdVrip
022.73.0018.10.740.001
5020.22.9816.50.730.002
10018.32.9714.50.720.003
15016.72.9713.00.710.005

 出力電流を0にしてボリュームを回すと、出力電圧は1.45Vから23.0Vまで変化しました。上の表の左側は出力電圧を12Vにしたときの測定結果です。05Z6.2を基準電圧にしたときに比べるとだいぶ安定度が悪くなりました。でも基準電圧(Vd)自体の変化は小さいので、別の原因で電圧が降下しているのだと思います。また、リップルが多いのも気になります。右側は出力電圧を3Vにしたときのものですが、これはよく安定しています。基準電圧と出力電圧の差がありすぎると良くないのでしょうか。

 余談ですが、電圧可変範囲が広いと、希望の電圧にあわせるのに苦労します。もし、1.5Vから15Vまで可変できる電源器を作るとしたら、電圧設定ボリュームに何かひと工夫必要です。

3. トランジスタのベース・エミッタ間を基準電圧にする

 上の回路図を見ていて、普通のダイオードでもいけるんだったら、TR2のベース・エミッタ間の順方向電圧そのものを基準にしても大丈夫じゃなかろうかと思って実験してみました。回路図は下記の通りで、TR2のエミッタが直接マイナスにつながっています。ボリュームをプラス側いっぱいに回すと、出力電圧は0.72Vまで下がりました。

 上と同じく、出力が12Vのときと3Vのときの結果を記します。

実験回路図3

Vout=12V
IoutVinVoutIc2Vb2Vrip
023.112.0010.50.660.001
5020.512.147.60.660.004
10018.512.285.50.650.008
15016.712.373.70.640.013
Vout=3V
IoutVinVoutIc2Vb2Vrip
022.33.0018.70.700.001
5019.82.9916.20.700.002
10017.83.0014.20.690.003
15016.13.0212.40.690.004

 出力が12Vのときは電圧がだんだん高くなっていきます。これでは定電圧電源とは言えませんね。3V出力のときは安定しています。

 精度の高い実験をするのが難しいので、今回はいろいろ疑問が残ってしまいました。でもまあ、普通のラジオ用だったらこの程度の電源で十分じゃないかと思います。

 (2005年6月27日)

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