ブレッドボードラジオその他の実験と製作

アナログテスタによるダイオードの測定

 アナログテスタを1台のみ、あとは何も使わずにダイオードの順方向特性を測定する方法を紹介します。これは、橋本健著「テスターの上手な使い方」(日本放送出版協会、昭和50年発行)という本に載っていたものです。

 測定にはテスタのオーム計を使います。アナログテスタのオーム計には複数のレンジが設けられているのが普通です。私がいつも使っている「カイセ SK-300」には x1kΩ、x100Ω、x1Ω の3つのレンジがあります。例えば1kΩの抵抗器をこれら3つのレンジで測定すると、当然ながらどのレンジでもメーターの針は1kΩを指します。しかし、ダイオードの順方向の抵抗を測定してみると、レンジによって異なった抵抗値を示します。手元にあったシリコンダイオード1S1588の測定結果は次の通りです。

 これは、測定レンジによってオーム計の内部抵抗が違うためです。内部抵抗が変わるとダイオードにかかる電圧も変わります。このことを逆に利用すると、ダイオードの順方向特性を知ることができます。

第1図及び目盛りの写真

 まず、オーム計の各レンジでの内部抵抗が何Ωなのか調べる方法を説明します。第1図はアナログテスタをオーム計にしたときの原理回路です。実際の回路はもっと複雑ですが、基本的なしくみは同じです。メーター(電流計)と電池、内部抵抗が直列に接続されていて、測定端子につながれた抵抗の大小によってメーターの振れが変化します。なお、ここで言う内部抵抗とは、メーター自身の内部抵抗と外部の直列抵抗の合計値です。

 この回路で、測定端子に何もつながないときはメーターはまったく振れません。反対に、測定端子をショートするとメーターは右端(フルスケール)まで振れます。ということは、測定端子に内部抵抗と同じ抵抗値の抵抗をつなぐと、メーターはフルスケールのちょうど半分まで振れるはずです。したがって、オーム計の目盛りのちょうど半分、中央のところの数字が求める内部抵抗ということになります。

 SK-300の目盛りは上の写真の通りです。抵抗目盛り(最上段)の中央には30と書いてあります。つまり、x1kΩレンジのときの内部抵抗は30kΩ、x100Ωレンジでは3kΩ、x1Ωレンジでは30Ωです。

第2図
 オーム計の各レンジでの内部抵抗がわかると、そのときのメーターのフルスケール電流値もわかります。x1kΩレンジでは内部抵抗が30kΩです。電池の電圧は1.5Vですから、第2図のように、測定端子をショートすると回路には 1.5V÷30kΩ=50μA の電流が流れて、メーターは右端まで振れます。つまりこのレンジでのメーターのフルスケール値は50μAです。実際のテスタでは使っているうちに電池の電圧がだんだん下がってきます。そのため、直列抵抗の一部をボリュームにして調節できるようにしています。これが「ゼロオーム調整ボリューム」です。

 同様にして他のレンジのフルスケール電流値を求めると、x100Ωレンジでは 1.5V÷3kΩ=0.5mA、x1Ωレンジでは 1.5V÷30Ω=50mAとなります。このようにして求めた各レンジの内部抵抗とフルスケール電流値をまとめると下記の通りです。

レンジ内部抵抗フルスケール値
x1kΩ30kΩ50μA
x100Ω3kΩ0.5mA
x1Ω30Ω50mA

 ここまでわかったところで、実際にオーム計にダイオードをつないで抵抗値を測ってみます。あらためて言うまでもないと思いますが、アナログテスタをオーム計にすると、電流はマイナス端子(黒)から出て、プラス端子(赤)へ流れ込みます。したがって、ダイオードの順方向の抵抗を測るときはアノードを黒に、カソードを赤につなぎます。

 さて、例えばx1kΩレンジでの抵抗値が15kΩだったとしましょう。このとき回路に流れている電流の大きさを知るには、抵抗目盛りの内側にある電流目盛りを読みます。もう一度SK-300の目盛りの写真を見てください。3つある電流目盛りのどれでもいいのですが、一番下の0〜6の目盛りを使うとすると、15kΩの下には「4」と書いてあります。つまり、フルスケールの6分の4まで振れたことになります。このレンジのフルスケール電流値は50μAですから、実際に流れている電流は 50μA×4÷6=33μA とわかります。

第3図
 電流値が求まると、ダイオードの両端の電圧も計算できます。第3図で、回路に流れる電流は33μAなので、30kΩの抵抗での電圧降下は 30kΩ×33μA=1V、電源電圧が1.5Vですから、ダイオードにかかっている電圧は 1.5V−1V=0.5V です。つまり、このダイオードは順方向電圧が0.5Vのとき、順方向電流が33μAになる、ということが判明しました。他のレンジでも同様に測定すると、3レンジの場合は3点での測定データが得られます。

 下に、各種ダイオード、およびトランジスタのベース・エミッタ間の順方向特性を測定した結果を掲げます。

ゲルマニウムダイオード 1N60
レンジ抵抗値電圧電流
x1kΩ3.2kΩ0.15V45μA
x100Ω600Ω0.25V0.42mA
x1Ω80Ω1.1V14mA
ショットキーダイオード 1SS108
レンジ抵抗値電圧電流
x1kΩ1.5kΩ0.06V48μA
x100Ω330Ω0.15V0.45mA
x1Ω60Ω1.0V17mA
シリコンダイオード 1S1588
レンジ抵抗値電圧電流
x1kΩ12kΩ0.45V35μA
x100Ω1.6kΩ0.53V0.33mA
x1Ω28Ω0.73V26mA
ゲルマニウムトランジスタ 2SB171のB-E間
レンジ抵抗値電圧電流
x1kΩ2.4kΩ0.12V46μA
x100Ω400Ω0.18V0.44mA
x1Ω11Ω0.40V37mA
シリコントランジスタ 2SC1815のB-E間
レンジ抵抗値電圧電流
x1kΩ18kΩ0.57V31μA
x100Ω2.2kΩ0.63V0.29mA
x1Ω34Ω0.80V23mA

 数字だけ並んでいるとイメージがわかないので、グラフを書いてみました。ポイントが3点しかないので無理やりって感じですが、一応、教科書で見かけるような形になりました。ゲルマニウムダイオードとゲルマニウムトランジスタの特性の違いが興味を引きます。

特性グラフ

 以上です。測定自体は簡単ですが、あとの計算が面倒くさいですね。でも、アナログテスタのオーム計について考えるよい機会になりました。

 (2005年11月26日)