ブレッドボードラジオLMF501T

ラジオ用3端子IC・LMF501Tの研究

 (2004年7月31日)

 ラジオ雑誌によく登場する中波ラジオ用3端子ICについていろいろ実験してみました。この種のICは何種類かあるようですが、以下の実験ではすべてミツミのLMF-501Tというものを使いました。

第1図

 このIC単体でイヤホンを鳴らす回路としてもっともよく見かけるのは第1図の回路です。以下、この回路を「基本回路A」とよぶことにします。
 トランジスタと同じ形をした小さなICが1個だけの簡単なラジオですが、バーアンテナだけでもよく聞こえます。日中はローカル局のほかに隣県の局も弱く入感しました。夜になると国内各地や近隣諸国の放送が10局以上受信できます。ただし選択度にはやや難があり、ローカル局の近傍の周波数に出ている遠距離局を聞くのは苦労します。

 第1図の回路でCRの定数を変えるとどうなるか実験してみました。
 感度の良し悪しは、回路に流れる電流を測定することによって比較しました。このICは無信号時には約0.3mAの電流が流れますが、放送を受信すると電流が増えます。電波が強いほど電流も多くなるので、これが感度の良さの目安になると考えました。
 まずR1の抵抗値を変えたときの電流の変化を調べてみました。「放送受信時」というのはローカル局を受信しているときのものです。

R1の抵抗値無信号時の電流 放送受信時の電流
33kΩ 0.31mA 0.36mA
47kΩ 0.31mA 0.43mA
100kΩ 0.31mA 0.47mA
220kΩ 0.31mA 0.50mA
330kΩ 0.31mA 0.48mA
470kΩ 0.31mA 0.41mA

 R1の値を大きく変化させても、無信号時の電流にはまったく変化がありません。極端な話、R1を短絡、あるいは開放にしても同じです(ただし放送は聞こえなくなる)。
 もっとも感度が上がるのはR1が100〜330kΩのときですが、この範囲からはずれたからといって、耳で聞いてわかるほど感度が低下することはありません。それにもかかわらず、ほとんどの製作記事で100kΩが使われているのは、何か理由があってのことでしょうか。

 次にR2の値を変えてみました。R1は100kΩです。

R2の抵抗値無信号時の電流 放送受信時の電流
470Ω 0.40mA 0.55mA
1kΩ 0.32mA 0.39mA
1.5kΩ 0.28mA 0.30mA
2.2kΩ 0.22mA 0.24mA
3.3kΩ 0.18mA 0.19mA
4.7kΩ 0.14mA 0.14mA

 R2を変化させると無信号時の電流は大きく変化し、それにつれて受信状態も変化します。R2が小さいほど感度が上がりますが、感度を上げすぎるとローカル局受信時に音が歪むことがあります。また電流が増すとICが発熱するので、R2をあまり小さくするのは好ましくないと思います。R2をボリュームに換えて感度調節するのが良いかもしれません。
 R2を2.2kΩにすると遠距離局は聞こえなくなり、4.7kΩにするとローカル局も聞こえなくなります。

 続いてコンデンサの容量値を変えた場合の変化です。
 C1は、10pFから1μFまで広範囲に変えてみても違いがよくわかりません。たいていは0.001μFが使われますが、雑誌記事でひとつだけ、「低い周波数の感度を抑える」という理由で100pFを使った例を見たことがあります。
 つぎにC2ですが、これがないとICが発振してしまいます。発振を止めるには0.05μF程度以上のコンデンサが必要です。一方、1μF以上にすると音が小さくなってしまいます。
 C3は、容量を減らすと音が小さくなります。反対に、1μFより大きくしても音量はあまり変化がありません。クリスタルイヤホンで聞く場合は、このコンデンサを取ってしまってICの出力端子にイヤホンを直結しても同じように聞こえます。

第2図

 第2図の回路は、ICの入力側が基本回路Aと少し違います。これを「基本回路B」とよぶことにします。ICメーカーのデータシートに載っているのはこの回路ですが、なぜか製作例はあまり多くありません。
 実際に組み立てて聞いてみると、基本回路Aよりも感度が優れています。日中でも遠距離の大電力局が入感するようになり、夜間には、フェージングのピークで短時間だけ聞こえるものも含めると30〜40局キャッチできました。感度だけなら、数百円で売られている市販のポケットラジオに引けを取りません。でも選択度は基本回路Aと同じです。ローカル局にじゃまされなければ、受信局数はもっと増えると思います。

 ところで、高感度の代償というのでしょうか、この回路はバンドの上のほうで発振してしまうことがあります。ダイヤルを回して周波数を上げていくと、あるところで「プツ」と言ってそれっきり無音になってしまいます。元の状態に戻すには、発振を始めた位置よりもっと低い周波数までダイヤルを戻さなければなりません。
 発振するか否かは非常に微妙で、同じように配線したつもりでも発振するときとしないときがあります。発振しないまでも、全体に歪っぽい音になったりします。高感度であるにもかかわらず製作例が少ないのはこうした扱いにくさが原因かもしれません。基本回路Aでもローカル局の受信には何も問題がないので、局数の多い大都市ではかえって混信が減って好都合ということもあると思います。

 少し感度を下げて発振を防ぐにはいくつかの方法があります。下の第3図のようにバーアンテナの中間タップを使うのもそのひとつです。

第3図

 バーアンテナPA-63Rの白タップはコイル全体のほぼ中間あたりから出ています。ICの入力端子、もしくはR1をこのタップにつなげば発振のおそれはなくなります。感度は若干下がりますが、それでも基本回路Aよりはまさっています。
 R1の接続点はアース側に近いほど感度が上がりますが、同時に発振しやすくなります。逆に、ICの入力端子の接続点はできるだけ上にあったほうが高感度ですが、やはり発振の危険性が増え、また選択度も悪くなります。

 基本回路BについてもR2を変えて動作状態の変化を調べてみました。

R2の抵抗値無信号時の電流 放送受信時の電流
470Ω 0.40mA 0.85mA
1kΩ 0.32mA 0.49mA
1.5kΩ 0.27mA 0.36mA
2.2kΩ 0.22mA 0.26mA
3.3kΩ 0.18mA 0.19mA
4.7kΩ 0.14mA 0.14mA

 無信号時の電流は基本回路Aと変わりませんが、放送受信時の電流の増えかたが大きくなっています。このことからも基本回路Bの感度の良さがわかります。今回実験した回路ではR2を470Ωにすると発振してしまいました。R2を小さくしたときに起こる発振と、バーアンテナのタップ位置の違いによる発振が同じものかどうかわかりませんが、基本回路Aと同様、R2をボリュームにして細かく調節できるようにすると便利だと思います。
 ちなみに、基本回路AでもR2を小さくしていくとだんだん感度が高くなりますが、Bと同程度になる前に発振してしまいます。

第4図

 電源電圧を変えると受信状態がどう変わるか実験しました。回路は第4図の通りです。3VのACアダプタの出力をボリュームで分割してICに供給します。ラジオの回路は「基本回路B」ですが、ICが少し発振気味なので入力端子をタップダウンしました。

電源電圧無信号時の電流 放送受信時の電流
0.7V 0.04mA 0.04mA
0.9V 0.11mA 0.11mA
1.1V 0.18mA 0.23mA
1.3V 0.25mA 0.39mA
1.5V 0.32mA 0.57mA
1.7V 0.40mA 0.74mA

 聞こえかたの変化はR2を変えたときと似ています。電源電圧が1V以上あればローカル局は実用的な音量で聞こえます。遠距離局を聞こうと思うなら1.3V以上は必要です。
 今回の実験回路では、電源電圧を1.5Vより高くするとピーピー発振してしまってNGですが、このときR2を大きくしてやれば発振を止めることができそうです。そこで、無信号時の電流が0.3mA(これなら発振しない)になるようなR2を実験で求め、そのとき放送受信時の電流がどれくらいになるか調べました。

電源電圧R2無信号時の電流 放送受信時の電流
1.3V 0.60kΩ 0.30mA 0.61mA
1.4V 0.93kΩ 0.30mA 0.52mA
1.5V 1.25kΩ 0.30mA 0.46mA
2.0V 2.92kΩ 0.30mA 0.38mA
2.5V 4.60kΩ 0.30mA 0.35mA
3.0V 6.30kΩ 0.30mA 0.33mA

 上記の電源電圧とR2の組み合わせはどれも安定していてよく聞こえます。ただ、放送受信時の電流は電圧が高いほど(R2が大きいほど)小さくなる傾向があります。ローカル局を聞いている分にはそれほど違いは感じませんが、遠距離受信の際には少し差が出るかもしれません。
 電源電圧が1.5Vより低い場合は、1.3VまではR2を小さくすることで対応できますが、それ以下になると0.3mA流すことができなくなります。
 何度も書いているように、R2をボリュームにして調節すればICをつねに最良の状態で動作させることができると思います。ローカル局の音が大きすぎるときは音量を下げることもできます。
 ところで、無信号時の電流が0.3mAのときは、ICの出力端子(R2の左側)の電圧はつねに1.12Vになります。つまり、直流的に見るとICの出力側は3.73kΩの抵抗器と同じということになります。このことから、電源電圧が決まればR2の最適値を計算で求めることもできそうです。

第5図

 第5図はクリスタルイヤホンのつなぎ方を示しています。1が標準ですが、2のように、コンデンサなしで直結しても問題ないようです。また3のように、R2の両端にイヤホンをつないでも同じように聞こえます。
 4と5は2個のイヤホンを並列または直列につないでみたものです。イヤホンを2個つなぐと音量が半分になるかと思いきや、ほとんど変化がありません。ですから、2個のイヤホンを両耳に挿せば2倍の音量で聞くことができます。ただ、2個直列にすると少し硬い音(低音が出ない?)になります。

第6図

 第6図はマグネチックイヤホンを使用する方法です。基本回路のままでクリスタルイヤホンの代わりにマグネチックイヤホンをつないでも音が小さくてだめですが、ダイソーの100円ラジオに使われているような32Ω程度のインピーダンスを持ったイヤホンの場合には、第6図の1のように、C3を1μFにすれば何とか実用になります。
 トランジスタラジオのオマケに付いてくる8Ωのイヤホンを使用するときは、2のように出力トランスを入れる必要があります。

第7図

 基本回路以外のバリエーションをいくつか実験してみました。第7図はある雑誌に載っていたものですが、他では見かけない独特な回路です。実際に組み立てて聞いてみると基本回路Aとだいたい同じような聞こえ方です。ただ、低い周波数でザーというノイズが出て少し発振気味になります。同時にボディエフェクトも生じてちょっと扱いにくい感じです。同調回路のアース側をシャーシにアースすると発振はほぼおさまります。

第8図

 第8図の回路は、R2のつなぎ方が基本回路AやBと異なっています。また、R1には1MΩが使われています。3端子ICをトランジスタになぞらえると、基本回路AやBは「自己バイアス型」、第8図の回路は「固定バイアス型」と言えましょうか。実際の動作は全然違うんですけど。
 この回路は問題なく動作し、感度も良好です。全電流は無信号時0.32mA、ローカル局受信時0.56mAです。
 オリジナルはR2が2.2kΩでしたが、実験の結果1kΩにしたほうが高感度でした。

第9図

 第9図の回路はさしずめ「エミッタフォロワ型」と言えそうです。この回路の考案者は、「ICメーカーの人も考えつかなかった究極の回路」と自画自賛していましたが、実際に試してみると、安定に動作はするものの、感度・分離ともいまひとつといった感じです。CRの定数を吟味すればもう少し良くなるかもしれません。電流値は無信号時0.34mA、受信時0.38mAです。